今年もお盆の季節がやってきました。
たくさんの人が里帰りしては、親と子、祖父母と孫、死者と生者、先祖と子孫が、久しぶりに再会を果たします。
ぼくはお盆が本当に大好きで、夏の暑さの中にひと筋の秋の匂いを感じる「季節のあわい」に、生者や死者が同じところに集うカオスを、心から愛します。
非日常のお盆
お盆になると、日本中の人たちが故郷に帰省をします。
実家に帰り、仏壇に手を合わせ、お土産を渡して、アイスコーヒーやカルピスを飲みながら、テレビでは高校野球。戦後日本の原風景です。
中には、友人と再会する人もいれば、帰省せずにレジャーに向かう人もいる。
いずれにしても、お盆は非日常。日々のせわしない暮らしをいったんオフにできる時間だと言えるでしょう。
ちなみに、ぼくたち仏壇屋さんのお盆は一年で一番忙しい繁忙期。休んでる暇なんてありませんが、裏返すと、日本中のお盆を支えているとも言えるわけで、ぼくらにとってもまた、いつもとは違う非日常な時間が流れているんです。
棚経参りも、盆踊りも、打ち上げ花火も、地蔵盆も、それらすべてが非日常です。死者は、日常を超えたところからぼくたちのことを覗いてきてくれます。
ぼくたちが生きている世界は、決してこの世界だけじゃない。
この世界に生きているのは、決して生きている人間だけじゃない。
そんなことを感じさせてくれるのが、お盆の醍醐味ではないでしょうか。
お盆はやさしさに満ちている
日本のお盆は、とにかくやさしさに満ち溢れている。
それを表しているのが、「施餓鬼」です。読んで字のごとく、餓鬼に施す。
つまり、日本のお盆では、ぼくたちと血のつながりのあるご先祖さまへの供養と、ぼくたちと血のつながりはないけど餓鬼道に落ちてしまった亡者たちの供養と、ふたつの供養をするんです。
お盆の時に仏間に飾る「盆棚」には、先祖の位牌を並べますが、畳の上には、蓮の葉を置いて、そこに生米を供えます。これを「餓鬼飯」と呼びます。
餓鬼飯には地域差があるらしく、ぼくの住む播州地方では、生米と夏野菜(キュウリやナス)を刻んだのをまぜたものを供えます。
先祖だけでなく、餓鬼にも供養する。それは、有縁だけでなく無縁の人たちにもやさしくしましょうねという、大乗仏教が説く「利他」が、季節の風物詩の中に溶け込んでいることを物語っています。
レジリエンスとしてのお盆
お盆にどこか切なさや寂しさを感じるのは、お盆が持つレジリエンス(回復)の性質のためではないでしょうか。
つまり前提として、痛み、辛さ、苦しみ、悲しみを抱えていて、お盆がそれらをいたわってくれる、ということです。
お盆に実家で癒されるとするのなら、日々の暮らしに疲れているのかもしれません。だからこそ、癒される。
故人のいないお盆が寂しいのは、グリーフ(悲嘆)がいまだ胸の中に刻まれていることを物語っています。
22歳の夏、母を亡くした年の初盆は、特に切なかったのを思い出します。
母を失った心の隙間を埋めようがない。
外では夏の日差しがぎらぎらと、この世界をこれでもかというくらいに明るく照らす。ニュースは、帰省やレジャーを楽しんでいる人たちを陽気に報じている。
喪に服し、薄暗い部屋の中、線香の香りが満ちる中でただただ静かに過ごす時間は、なんとも辛い。色んな人がお悔やみに来てはやさしく話しかけてくれるのですが、それが余計に母の不在を際立たせました。
もちろんそうした悲しみは、翌年のお盆には少しだけやわらぎ、その次の年のお盆にまたやわらぐ。
少しずつ時間をかけて死別を受け入れていくぼくたちにとって、お盆という年に一度の亡き人との再会のイベントは、なくてはならないものなのでしょう。
お盆を楽しむためにしてほしいこと
お盆休暇を存分に楽しんでほしいと思います。
海、山、川、プール。帰省して久しぶりに友人たちとマクドナルドでダラダラ話すのでもいい。どっかの祭や花火に出かけたら、それはそれは、楽しいことでしょう。
でも、お盆休みを迎えるにあたり、まずはお墓参りなり、お仏壇参りなり、亡き人やご先祖さまに会いに行ってほしいんです。
そうすることで、亡き人やご先祖さまが「よいしょ」っと、あなたの背中に乗っかって、そのあとのレジャーも、グルメも、祭りも、マクドナルドも、亡き人やご先祖さまとともに楽しむことになる。
いまこの瞬間の楽しさを、亡き人もともに感じてくれている。
いまこの瞬間の切なさを、ご先祖さまもともに感じてくれている。
あなたがいてくれているから、わたしはいまを生きていられる。
ご先祖さまがいれくれるから、いまぼくはここにいる。
そういう実感を伴いながら、お盆を過ごしてほしいものです。
ぼくの声はユニゾンなので、お盆だろうと、そうでなかろうと、いつも死者や先祖とともにいる。
でも、お盆は格別です。なぜなら社会全体が、グッとユニゾンに近づくからです。
「ぼくたちユニゾンだよね」と、共感の度合いが増す日本の夏が、ぼくは好きです。
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