『サピエンス全史』から考える死生観(前編)~この中に宗教が生まれた瞬間が書かれている!【死生観ラジオ001】

※この記事は、死生観ラジオ『『サピエンス全史』から考える死生観(前編)~この中に宗教が生まれた瞬間が書かれている!』をもとにテキスト化したものです。

死生観ラジオ。

この番組では、死を起点としていまの生き方を考える「死生観」の入口に立ってもらうために、死生観にまつわるさまざまなお話をしていきます。

ナビゲーターは、葬儀社、仏壇墓石店に務めながら、フリーライターとして活動している玉川将人です。どうぞよろしくお願いいたします。

1 本書を取り上げる理由

なぜ死生観ラジオの第1回に『サピエンス全史』を取り上げたのか。それは、この本の中の「認知革命」の章がまさに、宗教が生まれたその瞬間を解説しているからです。

死生観を考える上で、宗教、宗教性というのは欠かすことのできない要素です。

2 著者について

ユヴァル・ノア・ハラリさん。
1976年2月24日生まれ。(2023年1月現在47歳)
ユダヤ人の歴史学者で、ヘブライ大学歴史学部の終身雇用教授 。

世界的ベストセラーとなった3部作はこちら!

▶『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』

▶『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』

▶『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考」

特に『サピエンス全史』は世界的な大ベストセラーとなり、全世界での累計発行部数は2000万部を超えているとのこと。「ウォール・ストリートジャーナル」「ガーディアン」「ファイナンシャル・タイムズ」「ワシントン・ポスト」などの主要紙が称賛し、ノーベル賞を受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマンや、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ、FacebookのCEOのマーク・ザッカーバーグなども賛辞を寄せています。

3 本書について

『サピエンス全史』では、私たち人類、つまりホモ・サピエンスがどのように繫栄したのかを、20万年前のアフリカの一隅に登場してから21世紀の今日までの、ホモサピエンスの壮大な歴史が記されています。

まずは本書のおおまかな全体像をご紹介します。本書は上下2巻の4部構成です。

  • 第1部 認知革命
  • 第2部 農業革命
  • 第3部 人類の統一
  • 第4部 科学革命

ホモ・サピエンスがこれら3つの画期的な革命を経て、地球上の覇者になっていくさまを、進化生物学や自然科学、歴史(文明、政治、経済、宗教、戦争など)など、さまざまな角度から明らかにしていきます。

ちなみに、このラジオでは「認知革命の」の章だけをとりあげます。ほかの章も読みごたえ満載で、めちゃくちゃ面白いのですが、ばっさりカットです。

ちなみに、農業革命。人類の統一、そして科学革命。このあたりはなんとなく私たちでもイメージできますよね。

狩猟採集民が農耕民になることで、人類の生産性は飛躍的に向上し、文明を築いてきたのだと歴史の授業で習いました。

異文化や異なる文明の衝突によって世界はひとつになろうとしています。現代のグローバリゼーションなど最たるものです。

また、科学の力により、私たちの生活水準が飛躍的に向上していることは肌感で分かります。

農業革命、人類の統一、科学革命。これらはなんとなく頭の中で思い描けそうなものですが、こうしたホモ・サピエンスたちの躍進のすべては、いまから約7万年前に起きたと言われている「認知革命」がなければ、なしえなかったことでしょう。

それでは、認知革命とはいったいどういうったものなのか、詳しく解説していきます。

4 認知革命とは

認知革命。ひとことで要約するなら「虚構を語る言語を獲得したことで、大人数が協力し合うことができるようになった」ということです。

認知革命は、約七万年前に起きたそうですが、人類そのものはそのはるか昔からこの地球上に生息していたと言われています。

そもそも、ヒトとチンパンジーの共通の祖先は600万年前に出現しました。そして、250万年前に、東アフリカに、この地球上で初めての人類であるアウストラロピテクスが姿を現しました。200万年前になると、アウストラロピテクスは自分たちの故郷を離れて、北アフリカ、ヨーロッパ、アジアなどの広範な地域に進出して住みついたのだそうです。つまり、世界中にさまざまな人類種が生息することとなります。

世界中に住み着いた人類たちを、学者たちはそれぞれの特徴と紐づけて名前を付けていきました。

ヨーロッパやアジア西部の人類は「ホモ・ネアンデルターレンシス」で、「ネアンデルタール人」として知られています。
アジアのもっと東側に住んでいたのが「ホモ・エレクトス」。
インドネシアのジャワ島に住んでいたのが「ホモ・ソロエンシス」。
シベリアのデニソワ洞窟で見つかった人類種は「ホモ・デニソワ」などが挙げられます。
ちなみに「ホモ」とはラテン語で「人」や「人類」を意味します。

世界中に広がっていった人類ですが、東アフリカに残ってそのまま進化した人類種を「ホモ・サピエンス」と呼び、これが現生人類、つまり私たち人類のことです。ちなみに「ホモ・サピエンス」とは「賢い人」という意味です。

さて、こうしたさまざまな人類種を、最終的には私たちの種族、ホモ・サピエンスがすべてすべて絶滅に追い込むこととなります。それはなぜなのでしょうか。

ちなみに、サピエンスよりも、ネアンデルタール人の方が、強靭で、大きな脳を持ち、寒さにも強かったのだそうです。

それでもサピエンスが彼らを駆逐したのは、サピエンスが「虚構を語る言語を習得したからだ」とハラリさんは語ります。

虚構。これが大きなポイントとなります。虚構とは言い換えれば、実際にはない、作り上げた話のことです。フィクションなどとも呼ばれます。

虚構を語る言語を習得したサピエンスと、他の人類種との違いを、ハラリさんは、人類と共通の祖先を持つチンパンジーを持ち出して次のように綴ります。

もし何千頭ものチンパンジーを天安門広場やウォール街、ヴァチカン宮殿、国連本部に集めようとしたら、大混乱になる。それとは対照的に、サピエンスはそうした場所に何千という単位でしばしば集まる。私たちとチンパンジーとの真の違いは、多数の固体や家族、集団を結び付ける神話という接着剤だ。この接着剤こそが、私たちを万物の支配者に仕立てたのだ。

虚構とは、物語であり、フィクションです。仲間同士による嘘、陰口、噂話から始まった虚構ですが、しかしやがてこれらは、伝説や神話、神々や宗教を生み出していき、大人数の仲間たちの横の連帯を強めてます。

こうして、「大勢の見知らぬ人どうしが協力するという能力」を得たサピエンスたちは、他の人類種を駆逐して、世界征服者となっていくのです。

5 ライオンとライオンマンとプジョー

認知革命を経て、虚構を作り上げられるようになったサピエンスの威力を、ハラリさんはライオンを例に説明しています。これがとっても分かりやすい。

ここで語られるライオンとは、ライオン、ライオンマン、そしてプジョーです。

ライオンは百獣の王の、あのライオンです。ライオンマンとは、ドイツで発見された後期旧石器時代の象牙彫刻のことです。頭がライオン、身体は人間の形をしています。そしてプジョーとはフランス発の自動車メーカーのことです。この3つにどんな関係があるのでしょうか。

どんな動物も何かしらの言語を持っています。

たとえば「サバンナ・モンキー」は、さまざまな鳴き声を使って「気をつけろ!ライオンだ!」という警告を仲間たちに発することができます。

しかし、サピエンスは「今朝、川が曲がっている所の近くでライオンがバイソンの群れ跡をたどっているのを見た」と言うことができます。そして、集団の仲間たちはこの情報をもとに、ライオンを追い払って、バイソンの群れを駆るべきかどうかを話し合うことができます。

また、「俺はライオンを倒したことがある」と作り話をでっち上げたり、「あっちの村でライオンを倒したやつがいるぞ」と噂話をして、英雄を作り上げることも可能です。

サピエンスの能力はこれにはとどまらず、「ライオンは私たちの部族の守護霊だ」と言う能力までを獲得したのです。

「いま」「目の前に」やってきた現実のライオンにしか反応できなかったサバンナモンキーに対して、サピエンスは、過去のライオンの記憶や、ここではない別の場所にいたライオンと自分たちの位置関係や、ライオンの行動予測、ライオンを巡って嘘をついたり噂話を交わして英雄を作り、最終的にはライオンの守護霊を作り上げて部族全体をまとめることもできるわけです。

こうして作られたのがライオンマンです。

ライオンマン(掲載元:Wikipedia

 

いまから3万2千年前に、石製のナイフでマンモスの牙を刻んで作られた架空の存在は、人類最古の芸術作品であると同時に、宗教的な意味を持った神の表現であるとも言われています。

そして、このライオンマンを企業のシンボルにしたのは、何を隠そう、フランスの自動車メーカーのプジョーです。

プジョーはドイツのシュターデル洞窟からわずか300㎞離れたフランス・ヴァランティニェの村で、小さな家族経営として始まりましたが、いまでは世界中で約20万人の従業員が働いています。そのほとんどが互いに面識がないにもかかわらず、2008年には150万台の自動車を生産し、およそ550億ユーロの収益を挙げたそうです。

さて、では一体、プジョーとは何のことか。プジョーとは自動車を作る会社のことですが、では会社とはいったい何なのか。自動車がプジョーなのか、世界中のショールームや工場がプジョーなのか。プジョーのCEOのリンダ・ジャクソンがプジョーなのか。プジョーの社員たちがプジョーなのか。

でも、自動車一台なくなろうと、世界中のショールームや工場がなくなろうと、CEOや社員がやめようと、プジョーは残り続けるわけです。

つまり、プジョーの実体とは、私たちの集合的想像の生み出した虚構というわけです。

プジョーは「有限責任会社」いわゆる株式会社という法人ですが、この法人、そして株式会社という考え方は「人類による独創的発明の内でも指折りのものだ」とハラリさんは話しています。

サバンナ・モンキーが「気をつけろ!ライオンだ!」と叫ぶだけだったのに対し、認知革命を通して虚構を語る言語を手に入れたサピエンスは、最終的にライオンマンをシンボルにして20万人もの人間が国を超えて同じ自動車を作り、世界中に自動車を走らせることすら可能にさせている、ということです。

ではなぜ、サピエンスにだけ認知革命が起きたのか。これは残念ながら解明できていない、突然変異なんだそうです。

6 次回へ

ホモ・サピエンスが「ライオンは我々部族の守護霊だ」と言ってしまう時点で、そこにもう宗教が、神が誕生しています。私たちは「守護霊」という。いまここにいない存在のことを作り、それをみんなで信じることで、チームを、組織を、社会を連帯させてきたのです。

そしてこの番組は『死生観ラジオ』。死生観を語る上で、宗教や死後の物語は欠かせない。

次回は、この『サピエンス全史』が、どのように私たちの死生観を深堀りしてくれるのか、さらにじっくりと話したいと思います。

7 エンディング

このラジオ番組は、YouTubeとポッドキャストで同時配信しています。お好きなコンテンツでご視聴ください。

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また、番組の内容は、玉川の運営しているブログサイトで記事にしています。テキストでインプットしたい方は、概要欄のリンクからお進みください。

お相手は、玉川将人でした。次回もどうぞ、お楽しみください。


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