仏壇は物語が交差する場所。「ファンタジー仏壇」の可能性を考える|仏壇カタルシス#20

玉川が勤務する仏壇墓石の素心と、”ファンタジー武器屋”を展開する匠工芸。

兵庫県高砂市を拠点とする両社がコラボして作ったのがファンタジー仏壇です。

リリースから約2年半。社長の折井さんと副社長の桃井さんへのインタビューがようやく実現しました。その編集後記的みたいなものを綴ります。

一度死にかけた命を「好き」に全振りする

「ファンタジー武器屋」
「ファンタジー仏壇」

…と興味を覚えた人は、まずはこちらのロングインタビューを読んでほしい。

というか、この記事を読んでくれるのならばぜひとも、先にこれらを読んでほしい。

【前編】
ファンタジー仏壇の制作秘話と可能性について、玉川も交えて語り合ってます↓

オレの創った剣をお守りに存分に暴れてくれ!【ファンタジー仏壇制作秘話】匠工芸・折井匠さん&桃井鈴さんロングインタビュー(前編)|仏壇墓石の専門店・素心によるWEBメディア『こころね』
仏壇墓石の専門店・素心によるWEBメディア『こころね』| オレの創った剣をお守りに存分に暴れてくれ!【ファンタジー仏壇制作秘話】匠工芸・折井匠さん&桃井鈴さんロングインタビュー(前編)のページです。

【後編】
数々の魅力的なプロダクトを生み出す匠工芸の、出発点から現在に至るまでの歩みを、余すとこなく伺いました。壮絶な半生を生き抜いたふたり。強靱な生命力と死生観を持っています↓

死の際から放たれるクリエイティブ【ファンタジー仏壇制作秘話】匠工芸・折井匠さん&桃井鈴さんロングインタビュー(後編)|仏壇墓石の専門店・素心によるWEBメディア『こころね』
仏壇墓石の専門店・素心によるWEBメディア『こころね』| 死の際から放たれるクリエイティブ【ファンタジー仏壇制作秘話】匠工芸・折井匠さん&桃井鈴さんロングインタビュー(後編)のページです。

折井さんはアニメ・ゲーム界、桃井さんはそれらに加えてコスプレ界に、カルト的なファンを持つインフルエンサー。知る人ぞ知る存在です。

ふたりは次のように話します。

折井 ぼくは癌になったことと引き換えに得たものがある。鈴ちゃんも大事な家族を失ったことで得たものがある。そこで得たものを、とても大事にしています。

桃井 地獄を見てきたからこそ、わたしたちは強いと思います。

一度死にかけた命を、いまや「好き」に全振りしている。そんな彼らが手がけるプロダクトには、凄みがあるのです。

ファンタジー仏壇 2つのポジティブ

素心の社長が折井さんと桃井さんに「自分らが思う『仏壇』を作ってみてや~」と依頼したのが、ファンタジー仏壇誕生のきっかけ。

構想から3年。加古川本店に納品されたという一報を耳にして、はじめてぼくは、そんな企画が動いていたことを知ります。

現物を目の前にしたぼくの第一印象。

「あ。これ、いいかも」

奇抜であることに間違いはないのですが、あんまりイヤな感じを受けず、むしろ、次の2つのことを直感しました。

「作り手は供養の本質を感覚的に捉えているような気がする」
「ユーザーの死生観や死後観にあわせてカスタマイズすることでより価値を発揮するかも」

なぜそう思ったか。ちょっとことばをかみ砕きますね。

死後の世界は、きっとある

まずはじめの、「供養の本質を感覚的に捉えている」という点。

ファンタジー仏壇の奥にあるのは、古岩に刺さる剣。剣に込めた想いを、折井さんは次のように話します。

世の中にはしたいことができずに亡くなっていく人の方が圧倒的に多いと思うんです。(中略)そんな人たちに、「あの世では、この剣をお守りに、思う存分暴れて来いよ!」そういうメッセージを込めています。

死を覚悟して、いまもがんと闘いながら生き続けている折井さんのことばだからこそ、説得力が違います。

さて大事なのは、ここには「亡き人も死後の世界を生きている」という前提がある、ということ。

亡き人は死後の世界も生きているという認識は、古今東西、サピエンスに共通する死後観です。

ファンタジー仏壇に限らず、伝統的な仏壇も、同じ前提のもとに作られています。

たとえば金仏壇は極楽浄土を再現したものです。亡き人は極楽浄土に往生しているという信仰が、金仏壇を金仏壇たらしめています。

また、戒名とは仏弟子に授けられる名前です。亡き人は、いまも修行を積んで仏に成ろうとしているという信仰のもとに、戒名を彫刻した位牌が置かれるのです。

亡き人は、剣を片手に今もしっかり生きているという世界観は、まさに折井さんが、サピエンスの本質を捉えていたことに他なりません。

ユーザーと一緒にカスタマイズ

これまでの仏壇は、宗教や民俗が伝承してきた、伝統的な死後観を目に見えるかたちにしていました。

しかし、ファンタジー仏壇は、匠工芸が考える死後観をかたちにしたものです。

仏壇のバックボーンとなる物語をきわめて個人的なものにパーソナライズしているわけで、ユーザーひとりひとりの思い描く世界観を仏壇で表現できるんじゃないの?」という考えに行きつきます。

仏教の語る死後の物語の中に自分をはめこむのではなく、ユーザーとともにオリジナルストーリーの仏壇をゼロベースで作ることができるのではないかと、直感したのです。

大きな物語から小さな物語へ

仏壇は、いろんな物語が交差する場所です。

仏教の物語、先祖の物語、故人の物語、遺された家族の物語。さらに、作り手(職人)の物語や、売り手(仏壇屋)の物語も。

あらゆる角度からの物語の込められ方が群を抜いているプロダクト、それが仏壇です。

さて、これまでの仏壇は「仏さま」とか「ご先祖さま」という、いわば”大きな物語”に自分を寄せていく場所でした。つまり…

「仏さまに見守ってもらう」
「わたしも亡くなったら先祖になる」

…といった感じです。

こうした考え方って、仏教信仰や祖先崇拝がしっかりと社会に根付いていたからこそのものです。大きな物語に身をゆだねることで、ちっぽけな存在のぼくたちは安心感を得ていました。

ところが、戦後の日本社会では、さまざまな要因が絡み合って、身の回りから伝統的な宗教観や死生観を得る機会が失われましたし、”大きな物語”が信じられず、個人が発する、あるいは個人にパーソナライズされた”小さな物語”が求められる社会になりました。

それでも死生についての問いは依然として残るわけで、じゃあなにが宗教観や死生観を提起してきたかというと、マンガやアニメやゲームといった消費されるコンテンツ。これらの中で語られる物語から、ぼくたちは生きる意味、死ぬ意味、死後の世界観みたいなものを、積極的に受容しました。

実際に『新世紀エヴァンゲリオン』や『進撃の巨人』などは、神話的な世界を描いてぼくたちを熱狂させました。碇シンジに自身の存在意義を重ねましたし、エレンとライナーに生きることの残酷さを教えてもらいました。

『ドラクエ』や『ガンダム』に夢中になった折井さんにとっての死後の世界とは、まさに、古代から続く深い森の奥深くの岩に刺さる剣、それを抜き取り、第二の人生を歩む勇者の姿でした。

アニメやゲームの世界に生きるぼくたち世代にとってファンタジー仏壇は、ある意味において理にかなった、ナチュラルな仕上がりだったのです。

仏壇屋としての本音

とはいえ、エッジのかなりきいたファンタジー仏壇。リリース当初は賛否両論が渦巻きました。

「こんな仏壇、はじめてみた。面白い!」
「オレが死んだときにはこんな仏壇にしてほしい」

…というような声がある反面

「これはもはや”仏壇”ではない」
「死者をポップに祀るのはいかがなものか」

…といった意見も寄せられました。

でも、やっぱり個人化の時代ですから、伝統仏壇、モダン仏壇、ファンタジー仏壇などと、いろんな選択肢がフラットに与えられる社会が、ベターではないでしょうか。

その上で、「自分たちが作った物語はどうも頼りない」「仏教の重みがほしい」という声が挙がった時こそが、”大きな物語”を背負うことのできるお坊さんの出番です(そのニーズは絶対にあると思う)。

ぼく個人としては、個人化の時代、小さな物語が求められる時代だからこそ、超絶ニッチな領域を突いていきたいし、だれもが思いつかないけど本質を捉えた発想を提案したいし、失敗を恐れない奴でありたいし…というのが本音です。

仏壇は、作り手、売り手、買い手、亡き人、仏さま、みんなの想いが交差する場所です。それは、伝統仏壇でも、ファンタジー仏壇でも、変わりません。

だからこれは、完成形ではなく。むしろプロトタイプ。

「こういう仏壇がほしいです」というあなたの声から始まる、二人三脚でともに創っていく仏壇、それこそがファンタジー仏壇の真骨頂です。

桃井 折井のすごいところは、どんなことばも否定しないんです。絶対に受け入れてくれます。(中略)そこはいつだって変わりませんね。入社したころから、昨日も、今日も。

玉川 そのスタンスは、どこから来ているんですか?

折井 ぼくがたくさん否定されてきたからです。がんになった時も、起業の時も、起業したあとも、とにかく「あれしたい」「これしたい」と言ってもことごとく周りから否定されてきた。それが本当に悲しくて悲しくて。だからぼくは、否定したくないんです。絶対に、否定しない。

話を聴き、そして語り、ともに形にしていく。そのプロセスから生まれるであろう満足感に、大きな可能性を感じています。


仏壇カタルシスとは…

仏壇店に勤務するライター・玉川将人が、
インド仏教最高指導者・佐々井秀嶺師からの…

あなたが仏壇の本を書きなさい。
ここにいる人たちの力を借りて
ここにいる人たちのために
本を書きなさい。

…という宿題を成しとげるべく、仏壇にまつわるお話を語っていきます。
あなたの力を貸して下さい。あなたのためのことばを綴ります。

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