お仏壇に祀られる”ふたつの仏さま”と、3人目の登場人物とは?|仏壇カタルシス#14

お仏壇は、「仏」の「壇」と書くだけあって、そこには「仏さま」が祀られています。

しかし、仏さまとはいったい誰のことなのでしょうか。

お仏壇の中には、「本尊」と「位牌」が祀られますが、それぞれが仏さまと考えられます。

この記事では、お仏壇に祀られる”ふたつの仏さま”について、想いを巡らせます。

お仏壇で祀られるふたつの仏さま

お仏壇は、仏さまを祀るためのものですが、お仏壇には、ふたつの仏さまがおられます。

ひとつはご本尊、ひとつはご先祖さまです。

ご本尊というのは、その宗派が大切にする仏典に出てくる仏さまのことです。釈迦如来とか、大日如来とか、阿弥陀如来とか。仏像や掛け軸のかたちで表されます。

そして、ご先祖さまとは言うまでもなく、ぼくたちの家族、両親、祖父母、そこからつながるご先祖さま・・・。ご先祖さまを表すものとして、位牌が置かれます。

この2つの仏さまがひとつのお仏壇の中に同居していることを、ぼくはとても素晴らしく感じています。

トップダウンのご本尊と、ボトムアップのご先祖さま

この両者の関係性は、「トップダウンのご本尊と、ボトムアップのご先祖さま」と言えるのではないでしょうか。

仏教では、亡き人は仏弟子となり、あの世で修行を積んで仏を目指すのだと説いています。

あのじいちゃんばあちゃんも、あの父ちゃん母ちゃんも、仏さまの弟子となり、しっかり修行を積んでいるわけです。その結果として、いまや仏と成っているのかもしれません。これを「成仏」と言います。

修行や、練習や、トレーニングには、必ずや、師匠、指導者、メンターがいます。この役割を果たしてくれるのが、仏典に出てくる仏さまたちです。

たとえば、天台宗や禅宗(臨済宗、曹洞宗、黄檗宗)では、釈迦如来をお祀りします。

釈迦如来は、古代インドに実在したお釈迦さまを神格化した仏さま。どんなことにも動じず、おだやかな心境でい続けられる、まさにぼくたちが理想とするパーフェクトなお方です。よき師匠、よきメンターです。

そのお釈迦さまを目指して、亡きじいちゃんばあちゃん、亡き父ちゃん母ちゃんは、修行を積んでいるわけですね。死んでしまったのは辛く苦しかったけど、ここから一つずつ修行をして、お釈迦さまのようになるぞと。

あるべき姿を示すご本尊と、その仏さまのようになろうと修行を積むご先祖さま。このトップダウンとボトムアップをひと目で分かるように作られているのがお仏壇なんです。

地続きとしての、3人目の「わたし」

完成者としてのご本尊。修行者としてのご先祖さま。

しかし、お仏壇には、もうひとりの、とても大切な登場人物がいます。

そう! お仏壇の前で手を合わせる、あなた自身です。

師匠と弟子の関係性をこちら側から見ているあなたがいて、はじめてお仏壇は成り立ちます。

本尊、先祖、わたしの三位一体、ということです。

ぼくたちは、仏壇を前にして、亡き家族の冥福を祈りますが、それは同時に自分自身の幸福を祈っていることに他なりません。

ご先祖さまが修行をしている姿は、ぼくたちに2つの安心を与えます。

ひとつは、亡き人のいまを知ることの安心。もう一つは、自分自身も死後を知ることの安心。「ぼくも父と同じように、成仏を目指すんだ」と。

もちろん、死後の物語も、未来の姿も、未知の領域です。そんなこと、誰にだってわかりやしない。でも、そんな未知の世界における「答え」のようなものを与えてくれるのが、死後観、死後の物語というものです。

もちろん、「死後の物語なんて嘘っぱちだよ」「偽物の答えに甘えてるんじゃねーよ」という声はあちこちから聞こえてきそうですし、それは一理あると思います。

でも一方で、だれもが等しく必ず死ぬこの世において、死後の物語を信じられる人の方がおだやかに死を迎えられるという調査結果があるのもまた事実です。

「死んだオヤジも、あの世でがんばっているんだな」
「やがてはぼくもオヤジみたいに修行を積むんだな」

仮にそれがフィクションや信仰の産物だとしても、あるべき未来の姿を持つことが、いまのぼくを安心させてくれる。

お仏壇の中では、生死を超えた壮大な物語が語られているのです。

外来の死後観と、日本古来の死後観

仏教は、インドで始まり、チベット、中国、朝鮮半島を経て、日本にやってきました。その間、各地の土着の信仰を包摂しながら、時代を経て体系化されてきました。

一方、日本にも、仏教伝来以前からの土着の信仰というものがありました。日本人は、身の回りの自然をとても大切にする民族のようで、死者の魂も、故郷の自然に溶け込んで、わたしたちを見守り続けていると信じてきたのだそうです。

死者の死霊(荒魂)は、時間を経ることで祖霊(和魂)となり、やがて神霊(氏神)となっていく。

そうした古来からの死後観に、仏教的な文脈が加わって、いまの日本の死者供養の文化があります。

ご本尊は外来の仏教の仏さま、ご先祖さまはぼくたちの両親や祖父母たち。

死者を仏に昇華させる死後観や、内外の信仰をダイナミックに組み合わせていくミクスチャー文化。

お仏壇には、日本という国の思想や文化の基盤が凝縮されているんだよということも、最後に付け加えておきたいと思います。


仏壇カタルシスとは…

仏壇店に勤務するライター・玉川将人が、
インド仏教最高指導者・佐々井秀嶺師からの…

あなたが仏壇の本を書きなさい。
ここにいる人たちの力を借りて
ここにいる人たちのために
本を書きなさい。

…という宿題を成しとげるべく、仏壇にまつわるお話を語っていきます。
あなたの力を貸して下さい。あなたのためのことばを綴ります。

※追伸

ちなみに、ご本尊は宗派によって異なりますし、ご先祖さまそのものである位牌を祀らない宗派もあります。宗派別の解説は、折を見て、しっかりとした記事にまとめたいと思いますので、こうご期待!

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