生きたいという意志があるから、死について考える-vol5 ハリエルさん(44歳・専業主婦)

死生観インタビュー。第5回目はハリエルさん(44)です。

7歳の時に弟を失くした悔いをいまも胸に抱くハリエルさん。コロナ禍でなかなか外に出れない日々が続くなか、YouTubeやテレビドラマなどからぼんやり浮かび上がる死生観についてお話下さいました。

7歳の時に亡くした弟への悔い

- この企画に応募してくださった理由を教えてもらえますか?

半分はノリみたいなものですね。「いいね」ボタンを押した程度の感じです。

- ありがとうございます。

もう半分は、弟のことがありまして。いま44歳ですが、私の場合は7歳の時に年子の弟を亡くしているんです。死というものを普通の人よりは意識しているのかもしれません。

- 普段、死について誰かと話すことなんてありますか?

ないですよ。話すと引かれます。

- みなさん、そう仰います。

日本には、これといった特定の宗教がないじゃないですか。

- そうですね。

正月は神社。夏はお盆。そして12月はクリスマス。そういうごった煮なところが日本の宗教の特徴だと思うんです。宗教的な教えを学校教育が扱うわけでもないし、だから、死生観ってあってないような、なくてあるような、そういう感じかな。

- 7歳の時に弟さんを亡くされた。差し支えなければその時のお話を伺いたいです。

親戚の家に遊びに行った時に事故にあったんです。弟は障害を持ってました。当時父は企業戦士で、母はひとりで、年子の子どもふたりを家の中で見るのがきっと大変だったんです。それで、私が弟を連れて親戚の家に行くって言い出して、そこで事故が起きてしまった。

- そうでしたか。

時間の経過によって細かい部分は忘れてしまっているのですが。親戚の家にはいとこがいて、その子たちと遊ぶのに夢中になっちゃって、面倒見るべき弟をほったらかしにしてたんですね。そして、目を離している隙に…。

- 7歳ですから、遊びに夢中になっても仕方ありませんよね。

「親戚のうちに行こう」って言わなきゃよかったと思ってしまいます。そう言わなければ弟はもう少し長く生きられたのに。私のせいじゃないと周りも言ってくれるし、私自身も頭では分かっていても、でもやっぱり私のせいなのかなと考えてしまう。

− はい。

この悔いは死ぬまで自分の中に残るものかもしれない。死ぬまでにその思いが払拭できればいいなと思いますけど。

- 私も大切な人を死別で亡くしています。「自分がああしておけば」と悔いてしまう気持ち、よく分かります。弟さんの遺骨はどこにあるのですか?

家のお墓に埋葬しています。ご先祖様と一緒に。毎月お墓参りしています。うちの家は神道なので、5年に一度の年祭(神道における年忌法要)もきちんと行ってます。

ハリエルさんの自宅に咲くゆりの花

葬儀系YouTuberから死ぬことと生きることを考える

- 自分の中の心の引っかかりやモヤモヤしたものを消化しきれない時、どうされてますか?

話せる時は親友に話します。でもコロナ禍で、その機会も減りましたよね。

- はい。

友達とのランチもできなくなって、したいとも思わなくなる。ラインしてても安否確認くらいな感じで盛り上がらない。幼稚園時代のママ友たちとの行き来もあるんですけど、子どもの成長と同時に、「うちとは違う」ってのが出てくるんですよね。

- ママ友あるあるですよね。

あと、死生観で言うと、葬儀系のYouTubeを見たりします。

- へえ。佐藤葬祭の佐藤さんとか?

そう! あと、下駄鼻緒さんとか。

- 火葬場系YouTuberですよね。佐藤さんともよく共演されている。

そうです。はじめに佐藤さんの動画が「おすすめ動画」に上がってきて見だしたんです。それから下駄さんも知りました。

− こうした葬儀系のYouTubeを見るのは、普段見ることのない世界をエンタメとして覗き見するのが好きだからですか? それとも死や命について考えさせられるからですか?

うーん。どちらもですよね。エンタメで言えば、下駄さんの火葬場のお話とか、面白いですよね。どうもうまく火葬できないと思うと柩の中に鶏肉が入っていた。故人が鶏肉大好物だったそうです。

− へえ。

あと、なんだかいい匂いがするなあと思うとメロンが入っていたりとか。不謹慎ではないトーンで話されるのが、純粋に面白いです。

− 火葬場職員の方だからこそ話せる内容ですよね。

火葬しているところを見ることはできるのか?

元火葬場職員のミュージシャンの下駄鼻緒さん。誰も知らない火葬場の現場を秀逸な話芸で語ります。(YouTube「火葬場奇談」より)

はい。あと、佐藤さんの動画の中で、「死にたいけれど、死にたいという想いを消したいと思っちゃダメなんですか?」という投書があったんですよ。それに対して佐藤さんは「その想いは間違いではないよ。自分自身も死にたいと思うことあるし、いまでも死にたいと思うこともある」と答えてました。あの動画は印象深いですね。

- なるほど。

死をうらやましく思うのはどうしたら治りますか? 葬儀・葬式ch

葬儀系YouTuberパイオニアの佐藤信顕さん。歯に衣着せぬ言動と情の深さから人気を集めている。(YouTube「葬儀葬式ch有限会社佐藤葬祭」より)

私自身も無性に死にたいと思うこともありますもん。

− そうですか。どういう時に死にたい想いが湧き起こるのですか?

うーん。そうですね…。娘の子育てに行き詰った時とかですかね。昨年、竹内結子さんが亡くなられたじゃないですか。

- ええ。

竹内さん、私の2歳下で、もしかしたら産後うつが原因じゃないかとか言われてますけど、そりゃなるだろうなと思います。私も子育てしてて、その大変さはよく分かるから。役柄的に前向きの人だっただけに、本当にショックでした。

− そうですよね。

ちょうど竹内さんが亡くなられた頃に精神科医の樺沢紫苑さんがYouTube動画の中でそれにいてを取り上げていて、そこから、佐藤さんや下駄さんが「おすすめ動画」に上がってきたのだと思います。

− はい。

でも、今こうして話してて思ったんですけど、死とか、そういうことを考えてしまうのって、心のどこかで「生きていきたい」という意思があるからなのかもしれませんね。

- 生きたいから、死について、調べる。考える。

そうなのかなと。でも最近はあんまりYouTube見れてないですね。

- あら、どうしてですか?

娘にスマホを取られちゃって(笑)

- なるほど。ライブ配信とかで直接やりとりなんかすると楽しいかもですよ。

でも、古参の人に睨まれるかもしれないし、眠れなくなっちゃいます。

大切な人を失ってから物語が始まる

− 日本には特定の宗教がないとはじめの方で言われましたが、神さまや仏さまっていると思いますか?

うーん。どっかにはいると思います。

- ハリエルさんの中ではどんなイメージですか?

天の上にいるような感じはするんですが、実はそのへんに通りすがりでいるのかなと思ったりして。スパイのように監視しているのかも。

− 神社の初詣やお寺の行事に足を運ぶことはありますか?

年に一度のお祭りみたいなのには行きますね。うちの家の近くに大きな神社があって、たまたま流鏑馬をしてたりとか、娘が1年生の時にお稚児さんで歩かせもしましたね。すごい長い道のりで、来年はもういいかって感じでしたけど(笑)

- じゃあ、人は亡くなったらどこに行くと思いますか?

うーん。天国か地獄かってもんですけど、私的には無になる感じですかね。

- 無。

はい。無です。死後のイメージといえば、私、クドカンが好きで、結構、死や死後がテーマになっているんです。

- 大人計画の宮藤官九郎さん。

はい。クドカンの作品って必ず誰かが死ぬんですよね。たとえば最近の『俺の家の話』では主人公の長瀬くんが亡くなっていた。

- 『木更津キャッツアイ』では岡田准一さん演じるぶっさんが亡くなりますし、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』という映画は、はじめに主人公が死んで地獄からの生還を目指すというお話ですね。

NHKの子供向けのアニメの「わしも」も、大好きだったおばあちゃんが亡くなって以来、泣いてばかりいる孫娘のためにエンジニアのパパがおばあちゃんそっくりのロボットを作るんです。

- そうでしたか。

クドカン自身も有名になる前にお父さんを亡くされている。そういうのが影響しているかもしれないです。大切な人を失ってからから物語が始まる。その法則に気づいちゃったんです。

− なるほど。形はどうあれ、人が生きていく限り、大事な人を見送り続けなければならないですもんね。

物語って、きっと生きていく人のためにあるものです。そして生きていくとは亡くなった人のことを抱え続けていくことなんだろうなと、多分そういうことを描かれているのだと思います。

− かもしれないですね。

ごめんなさい。時間になっちゃいました。今日はこれから娘の三者面談なんです。もっとお話ししたかったんですけど…。

− こちらこそ、お忙しい中、ありがとうございました。

9歳になる娘さんと大事されているぬいぐるみ。「娘もおじちゃん(ハリエルさんの弟さん)の年齢を超えて大きくなっていくんだなあ」とハリエルさん。子育てが忙しい中、時間の合間を縫って、インタビューに答えて下さりました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました