この仕事をしていると、ほぼ毎日のように、どこかのだれかのおうちの仏壇を見ます。葬儀社5年、仏壇店に13年勤めますと、出会ってきた仏壇の数は数千にも及ぶことでしょう。
そんなぼくが、「あっ、これはいい仏壇だな」と思うものには、ひとつの共通点があります。
完全なる独断と偏見ですが、「いい仏壇」「悪い仏壇」を分けるポイント、一体なんだと思いますか?
いい仏壇は〇〇がしてある
「いい仏壇」の「いい」って、なんでしょうか?
そもそも仏壇に、いいも悪いもない。というのが大前提です。おうちの人が満足や納得をする仏壇であれば、高価だろうと廉価だろうと、それはもう充分に立派な「いい仏壇」です。
仏壇って、そもそも他人の仏壇と比較できるものでもないですし、すべきものでもありません。
でも、仏壇屋さんは、いろんなおうちのいろんな仏壇を見ているので、否応なしに比べてしまえるポジションにいます。
比較そのものに意味はないと思いますが、でもいろんな仏壇を見ることによって、傾向のようなものを捉えられるのではないでしょうか。
そうした観点から、ぼくの中には、「ああ、これはすばらしい仏壇だな」と思わせる共通するあるポイントがあります。
大きさ? 違います。
デザイン? いやいや、違います。
お値段? いえいえ、そうじゃないんです。
こうした要素ももちろん大事ではあるんですが、ぼくの中の大事なポイントは…
掃除がされているかどうか
…なんです。
ぼくの心を揺さぶる仏壇は、いつだって掃除がされています。
目を疑うほどの古びた仏壇の黒光り
とあるおうちに伺った時、本当に目を疑いました。
それは、ひと目見て、50年物と分かる金仏壇、しかも、最上品とまでは言えない、いわゆる「並」のクラスのものでした。
50年も経つと、木地は痩せ、立て付けも歪み、金箔も剥げ、彫り物も取れています。そんな中、黒漆の部分だけが、圧倒的に輝いている、その光沢に驚きました。
「これは丁寧にお掃除されてますねー」
こう問いかけると、ほとんどの方は謙遜して「できるところをちょっとやってるだけやで」なんて返事をします。そのおうちのお母さんも同じでした。
でも、ピカピカに拭きすぎた漆の表層部分は艶やかでなめらかな光沢を放ち、深層部分では深みを帯びた漆黒がまるで奥深くにまで吸い込まれていくようなのです。これは、毎日何年何十年と拭き続けてきた「継続」でしか表せない美しさです。
「ぼくは、いろんなおうちのいろんなお仏壇を見てきてます。だから分かる。お母さん、これはすごいわ」
そう伝えるとお母さん、照れ臭そうに笑っていました。
なんだって、磨けば光る
お掃除がされている仏壇って、本当に光り輝きます。
半分は比喩ですが、半分は本当にそうなんです。
仏壇に限らず何だって、拭けば拭くほど、磨けば磨くほど、色つやが増しますよね。やがてそれが光沢となる。
古いお寺に行くと、「びんずるさん」と言って、身体に触れるだけでご利益が得られる仏像が置いてあります。毎日のようにたくさんのお参りの人がびんずるさんの表面を撫でて、それが何百年と続くわけです。いろんな人の手の脂や垢も相まって、これがなんともいえない艶と光沢を生み出している。この光沢は、決してお金では買えないものです。たくさんの時間とたくさんの人の手によってこそ生み出される、合理性の対極にある美しさです。
ダイヤモンドだって原石を磨くことであの美しさを生み出すわけですし、革靴だってきちんと磨くことで何年も履けて、革独特の艶感がその人をよりスタイリッシュに見せてくれます。
仏壇だって同じです。仕上げが漆塗りであろうと、ウレタン塗装であろうと、毎日ねんごろにほこりを払って、乾拭きしてあげる。これをくり返せばくり返すほど、お仏壇は色つやを増すのです。
手間ひまの美しさ
ぼくはなにも、毎日めちゃくちゃに掃除しまくって、仏壇を金色に輝かせましょうなんて言ってません。
大事なのは、あなたの貴重な時間のわずか一部でもを、「手間ひま」として、家族や先祖に手向けませんか、と伝えたい。
仏壇がきれいに掃除されているというのは、そのまま、そこに住む家族が仏壇の中にいる人たちを大事にしている、その心を映していることに他なりません。
そら、掃除はめんどいですよ。いやですよ。
でも、手間ひまかけたものには、手間ひまかけただけの、手間ひまをかけなければ表せない、美しさがあります。
しかも仏壇って、だれかにひけらかすものではないです。だから、「ここまでしなくちゃいけない」という制約もかからない。
「今日は忙しいから、これだけでごめん!」
「今日は時間があるからくまなくお掃除したよ」
お仏壇の中にいるのは、あなたの家族。こうしたやりとりだって、充分に成り立つんです。
心を磨き、心が輝く
手間いらずなものって、人気です。ぼくも大好きです。
- 手間いらずの掃除機
- 手間いらずのお庭
- 手間いらずのエアコン
- 手間いらずのお墓
- 手間いらずの仏壇
現代人って忙しいですから、掃除とか、お手入れに、手間をかけたくないんですよね。その気持ちは、分かる。
でも、一方で、断捨離して、溜めたものを捨てて、部屋の中をお掃除することで、心がスッキリしたりします。
人間は、環境の生き物なので、目に映る場所がきれいであれば、自分の心の中も清らかになります。
その環境を自らの手できれいにするなら、なおのことよい。その場をきれいに掃除することは、自身の心をきれいにしていることとイコールです。
まして、仏壇には、愛する配偶者、両親、じいちゃんばあちゃん、先祖がいる。自分の支えとなる人たち、ルーツとなる人たちがいてくれる場所を、自らきれいにすることで、自身の存在意義までもが輝きを放ちます。
そうさせてくれるような仏壇こそが、ぼくの中での「いい仏壇」なんです。
どんなに高い仏壇も、放置していたら中の空気がすぐに淀みます。一方で、どんなに安価な仏壇でも、長く大事にされているものは、いつまで経っても清らかで、年月が増すごとにより味わい深くなっていきます。
「仏壇を掃除するということは、心を磨くこと」
「仏壇をきれいに掃除している時、あなたの存在そのものが輝いている」
…と言っても言い過ぎではないと、ぼくは本気で考えています。
<追伸>
仏壇の掃除の方法は、こちらにくわしくまとめています。
要点まとめると…
- 合掌
- 写メをとる
- 仏具を全部出す
- ホコリを払って、拭き掃除
- 写メ通りに仏具を戻す
- 合掌
…です。あんまり気負わずに、気ままにやってみましょう^^
仏壇カタルシスとは…
仏壇店に勤務するライター・玉川将人が、
インド仏教最高指導者・佐々井秀嶺師からの…
あなたが仏壇の本を書きなさい。
ここにいる人たちの力を借りて
ここにいる人たちのために
本を書きなさい。
…という宿題を成しとげるべく、仏壇にまつわるお話を語っていきます。
あなたの力を貸して下さい。あなたのためのことばを綴ります。
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