お仏壇でリラクゼーション。「1/fゆらぎ」のひと時を過ごす|仏壇カタルシス#18

「1/fゆらぎ」をご存じですか?

1/fゆらぎとは、自然界に存在する予測できない変化や動きのことです。

わたしたち人間は、この1/fゆらぎに心地よさを感じると言われていますが、実はお仏壇の中にもたくさんの1/fゆらぎがあります。

この記事では、お仏壇と1/fゆらぎ、そこから得られるリラクゼーション効果についてご紹介いたします。

1/fゆらぎとは

1/fゆらぎは、わたしたち人間を心地よくしてくれるそうです。

このゆらぎ効果は、よく音楽の世界で語られます。モーツァルトの旋律や、美空ひばりの歌声などはよく知られるところです。

その他にも、川のせせらぎ、鳥のさえずり、風にゆらぐ木々の葉擦れ、打ち寄せる波の音など。

1/fゆらぎは聴覚だけでなく、あらゆる感覚器官にも訴えます。木漏れ日、蛍の明滅、電車の揺れ、たなびく髪の毛などにも、1/fゆらぎが見つけられるのだそうです。

このように考えてみると、森林浴、ヒーリング音楽、キャンドルなど、昨今なにかと人気のリラクゼーション効果があるものたちは、みなが1/fゆらぎを発しているのかもしれません。

1/fゆらぎ 科学的な説明

1/fゆらぎがどういうものなのか、もうすこし科学的な角度から見ていきましょう。

1/fゆらぎをひと言で表すと、「パワー(スペクトル密度)が周波数 f に反比例するゆらぎ」のことらしいです。

なんのことか、ぜんぜん分からないですよね。

そこでこの記事では、「ゆらぎ」研究の第一人者の物理学者・佐治晴夫さんのインタビュー記事『心を癒やす音楽の力、1/fゆらぎのひみつ』をもとに、1/fゆらぎについてご紹介していきたいと思います。

宇宙は約138億年前に「ビッグバン」という極めて熱く小さな点から爆発的に誕生しました。そして、急速に冷却と膨張を経て基本粒子が形成され、やがて原子や分子へと結合していきます。

さて、ここでおもしろいのは、これらの基本粒子は意志を持っていないため、デタラメに自由に動こうとしているという点。

つまり、デタラメに(=自由に)動こうとするのだけれど、自分のまわりにひしめく粒子たちも自由に動こうとするため、自由と不自由が拮抗します。これが「ゆらぎ」なのだとか。

佐治さんは「世の中のあらゆる存在はゆらいでいて、逆に言うと、ゆらいでいなければ存在できない」と話します(この現象こそが量子力学の「不確定性原理」とのこと)。

ちなみに、ゆらぎのパターンは主に3つに分類されます。

1)予測不可能なデタラメなゆらぎ。
2)ある程度予測可能なゆらぎ。
3)半分予測できて、半分予測できないゆらぎ。

この3番目のゆらぎこそが、1/fゆらぎなのだそうです。

どうして、1/fゆらぎは心地いいのか

さて、それではどうしてわたしたち人間は、この1/fゆらぎに心地よさを感じるのか。

結論を先に言うなら、人間も「星のかけら」であり、自然界の万物と同様に人間も1/fゆらぎを発しているからです。

心拍(心臓の拍動)に1/fゆらぎを発見したのは物理学者の武者利光さんです。

武者さんは、まず心に訴えてくる音楽作品の音響振動数変動のスペクトルを調べて、そのほとんどが1/fゆらぎであることを突き止めます。

次に、武者さんは人間の心拍間隔のゆらぎを調査し、その解析結果を見て、大きなショックを受けます。

なぜなら、人間の心臓の動きに、1/fゆらぎが見られたからです。

武者さんは次のように語ります。

ここに、なぜ音楽が1/fゆらぎになるかについての鍵がある。つまり、生体の基本的なリズムのゆらぎに合わせた「ゆらぎ」を受けると、その生体は快感を得るらしい

出典:武者利光『1/fゆらぎと快適性)』

自然界と人間は、ともに1/fゆらぎで揺らいでいる。だから、心地よさを追求して創り出された音楽も、1/fゆらぎをしているのです。

自然界のあらゆるものと、人間の、それぞれが同じ1/fゆらぎを持っている理由を、佐治さんは次のように説明します。

ビッグバンによって宇宙が誕生し、基本粒子がたくさん集まって、水素や酸素、炭素、窒素、などさまざまな物質が生まれました。実は私たちの体を構成する要素も宇宙と同じで、多い順に、水素、酸素、炭素、窒素……です。基本粒子がたくさん集まってできる物質に1/fゆらぎが生まれるように、人間も生まれながらにして体内に1/fゆらぎを持っているわけです。

出展:MUSE『心を癒やす音楽の力、1/fゆらぎのひみつ』(大阪音楽大学)

宇宙の構成要素と人間の構成要素が同じだなんて、驚きですね!

川のせせらぎや、木々の葉擦れが心地いいのは、それらのゆらぎが、わたしたちの体内にあるゆらぎと共鳴しているからに他なりません。

お仏壇の中の1/fゆらぎ

さて、こうしてみると、お仏壇の中にもたくさんの1/fゆらぎを見つけられそうです。

お仏壇に手を合わせる時、わたしたちは1/fゆらぎの中で、神仏に、亡き人に、アクセスしているのです。

ここからは、お仏壇の中の1/fゆらぎについて見ていきましょう。お仏壇にいかにリラクゼーション効果があるかが分かるかと思います。

【※注意】なお、はじめにお伝えしておきますが、ここに挙げるすべてが1/fゆらぎを示しているという科学的な実証があるかどうかは定かではありません。ここでは、武者利光さんの「心に訴える音楽はおしなべて1/fゆらぎをしていると、言うべきかもしれない」という仮説を頼りに、「心地よさ」という観点からお仏壇のリラクゼーション効果にフォーカスします。

ろうそくのゆらめき

ろうそくに灯りをともし、その小さな炎をずっと見つめていると、不規則な動きを見せます。急に膨れ上がったり、縮みこんだり、大きく伸びたり、左右に揺れたり、1/fゆらぎが、手に取るように分かります。

そして、その炎をボーっと見ている時間が、意外に心地よかったりします。

それはまさに、自然界の1/fゆらぎと体内の1/fゆらぎが共鳴しているからに他ならないのでしょう。

キャンドルの灯り20分間【炎のゆらぎでリラックス効果・無音】Healing

お線香の煙、香り、明滅

お線香は、一人三役もこなしてしまう、ものすごいリラクゼーションアイテムです。

お線香の煙

お線香から立ち上る煙も、不規則な動きをして、その行き先を目で追っかけるだけで楽しいものです。

煙の行き先そのものは、室内の空気の循環や風の影響を受けるのでしょうが、しかし、その動きにもゆらぎを見て取ることができます。

線香の煙とティンシャの音色 Incense and Tingsha sounds

お線香の香り

嗅覚に訴える「香り」にも、ゆらぎはあるのでしょうか?

1/fゆらぎの研究は、視覚と聴覚を中心に行われています。

しかし、香料の配合の違いによってさまざまな香りを生み出すお香にも、ゆらぎの効果はあるのではないかと感じます。

お香のリラクゼーションは言わずもがなですが、資生堂研究所が、「香りのゆらぎ」に着目した製品をリリースしていました!

お線香の明滅

お線香に火をつけると、その先端が赤く灯されますよね。その明滅の中にも、ゆらぎを感じます。

線香の先端部分は約800度にまで上昇すると言われていますが、ほの暗く赤色に灯される光の明滅は、お線香だからこそのものです。

おりんの音

手を合わせる前におりんを叩くと「ちーん」ときれいな金属音が、長く、か細く伸びて、空間に溶け込んでいきます。

おりんの音色がかすかに揺らぎながら溶け込んでいく、その音に耳を澄ませることで、心がすっと落ち着きます。

おりんの音色も、きっと1/fゆらぎを発しているのでしょう。

【 おりんの音 】心落ち着かせる おりん 音 <1時間> 睡眠のための瞑想 / おりんの音色 / リラックス効果 / 集中力を高める / Orin's sound

仏壇の木材

仏壇は主に、塗り仏壇、唐木仏壇、モダン仏壇に大別できます。

唐木仏壇、モダン仏壇

唐木仏壇は、紫檀や黒檀などの銘木の木目の美しさを生かした伝統的なお仏壇です。

また、昨今人気のモダン仏壇にも、ウォールナットやタモなどの銘木が用いられます。

木そのものは、1/fゆらぎを発していると言われていますが、その木目にも1/fゆらぎが表れているそうです。

「木のぬくもり」なんて表現されますが、それはまさに木目の不規則性や、かすかに表れるゆらぎが、わたしたちにぬくもりを与えてくれるのでしょう。

木目調の仏壇(木目のプリント材を張り付けたもの)はどうしても深みがないのですが、銘木を用いた仏壇は、不思議と心地よさを与えてくれます。

現代仏壇「渓流」。ウォールナットの無垢材で組み合わせた扉が美しい(画像:素心株式会社)

塗仏壇、金仏壇

塗り仏壇(金仏壇とも言う)は、木材の表面に漆を塗るので、木目そのものは隠れてしまいます。

でも、工芸職人による手仕事には、やはりゆらぎによるあたたかみを感じます。

・漆塗りとウレタン塗装
・金箔押しと金色塗装
・手書きの蒔絵と蒔絵シール

これらの違いを見比べると、やはり前者の方が、ぬくもりや奥深さを感じます。

その分、高価になってしまいますが、1/fゆらぎを持つ人間の手によるものだからこそ、それが工芸品にも反映されるのでしょう。

工業製品ではなく工芸品の方が、より1/fゆらぎを見てとれるのかもしれません。

職人の一つひとつの手仕事の中から1/fゆらぎが感じられるのかもしれない(画像:素心株式会社)

1/fゆらぎに身を置くと、時間がゆっくり流れる

ろうそく、線香、おりん、そしてお仏壇。

1/fゆらぎの心地よさを感じようとすると、時間がゆっくりと流れることが分かります。

ろうそくの炎を見つめ、お線香の煙の行方を追い、心地の良い香りに包まれながら、おりんの音に耳を澄ませる。

こうした一つひとつのゆらぎを身体全体で味わおうとすると、必然的に時間がゆっくり流れます。それはとっても贅沢なひと時です。

人は、神仏や亡き人と向き合うことをものすごく大切にしてきました。だからこそ、祈りの場において「心地よさ」を追求し、その結果としてあらゆる場所で1/fゆらぎが揺らぐこととなったのでしょう。

1/fゆらぎに身を置いて、心地よさを感じながら、神仏や亡き人とつながりあう。お仏壇は、これ以上にない極上のリラクゼーション空間。そこで過ごすひと時は、まさに至福の時間、カタルシスなのです。


仏壇カタルシスとは…

仏壇店に勤務するライター・玉川将人が、
インド仏教最高指導者・佐々井秀嶺師からの…

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…という宿題を成しとげるべく、仏壇にまつわるお話を語っていきます。
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