死生観インタビュー。第7回目は伊藤ハギさん(17歳)です。
高校生からのインタビューの応募。はじめはドキリとしたものの、Twitterに届いたDMの、妙にはればれとした文面に触れ、ぜひとも話を聞いてみたいと思いました。愛着のある祖父母の死と温かみ。目を閉じると広がる輪廻する死後。田園に生きる17歳の素朴な死生観は、どこか風通しが良く、こちらを心地よくさせてくれました。
輪廻転生がおもしろい
ー 今日はよろしくお願いいたします。すてきなイラストですけど、これは?
僕が描きました。
ー へえ。何の絵なのですか?
犬。というか、「イヌ科」の絵ですね。
ー 絵はよく書くんですか?
趣味でよく描いています。
ー そうなんですね。今日は死生観インタビューを受けてくださるということで、ありがとうございます。
よろしくお願いいたします。
ー 10代の方からの申し込みは正直珍しいんですけど、申し込まれた理由は?
Twitterでカレー坊主さんをフォローしているのですけど、リツイートが流れてきて。「みなさんどうぞ!」って。おもしろそうだなあと思って、DM送らせてもらいました。
ぜひご応募ください😊 https://t.co/NADjKb1aGV
— カレー坊主@吉田武士 (@curry_boz) May 15, 2021
カレー坊主さんのRTのおかげで、死生観インタビューのツイートに対して、1日で15件の問い合わせをいただきました。
ー お坊さんをフォローしてるんですね? 仏教に興味があるんですか?
母の母校が京都の佛教大学で、そっから仏教に興味を持ち始めた感じです。
ー どんなところに興味を?
「輪廻転生」っていう言葉があるじゃないですか。生まれては死ぬ、死んでは生まれるをくり返すんだなと。それがなんかおもしろいなあって。
ー おもしろい、ですか?
はい。「なんだそれ?」「どうやったらそっから抜け出し仏になれるんだ?」って感じで。
ー へえ。「輪廻転生」ってことばはどこで知りましたか?
ネットです。
ー 自分から検索していったんですね。
はい。
輪廻がおもしろいだなんて、同年代で話せる人いますか?
いないいない(笑)
ー そのことは、さみしいですか?
全然。
ー 佛教大学を出たというお母さんとは?
実はね、お母さんともそんな話はしないですね。本当に独学に近い。
ハギさんから届いたDM。「妙に腑に落ちる」「ちゃんと生きてから聞きに行こう」。こうした表現のはれやかさに惹かれました。
誰もいない家の仏壇に、週6で遊びに行く
ー はじめて死生観や仏教に触れたのは何歳の時ですか?
小学4年生です。じいちゃんが亡くなったんです。入院して4日で亡くなった。その時にすごい泣いた記憶がある。そこから死に対するいろんな感情が湧き始めてきましたね。
ー おじいさんとは仲よかった?
良かったですよ。よく将棋を指してました。
ー いっぱい泣いたとのことですが、どんな感情の涙でしたか?
うーん。いろんなものが入り混じっていたんですけどね。なんか、声を忘れてしまうことへの恐怖がありました。
ー と言うと?
写真とか映像って、それを通じて姿が見れるじゃないですか。
ー はい。
でも、もうじいちゃんの声は聞けなくなるんだと思うと、「あああああ」って声に出したくなるくらい悲しくなったのを覚えています。事実、じいちゃんの声がどんなだったか、いまでは思い出せないです。
ー それだけおじいさんに愛着があった?
ありましたね。
ー やさしかった?
ずいぶんと。
ー おじいさんとの思い出深いお話はありますか?
納豆かき混ぜながらいっつもお経を読んでいたことです。
ー 納豆とお経?
はい。家から歩いて10分くらいのところにじいちゃんの家があるんですけど、「おーい」って玄関開けて中入ると、いつも納豆混ぜながらモニョモニョ言ってるんですよ。「それなに?」って聞いたら、「お経だ」って。
ー おばあさんはご健在なんですか?
いや。中2のときにばあちゃんも亡くなりました。「虫の知らせ」ってことば、あるじゃないですか。
ー ありますね。
あれがマジで起こったんです。中学から帰る時に、通学路が2つあって、「今日はばあちゃんちに近い方の道で帰ろう」と思ってそっちを歩いてたら、ばあちゃんちにパトカーが止まっていた。「え?」「なに?」 って、タタタと走って行くと、中から母ちゃんのむせび泣く声がするんです。「かんべんしろよ」と思っていたら出てきたのが警察。お風呂で亡くなっていたようです。ヒートショックというやつです。
ー おじいさんは入院4日目。おばあさんは突然のこと。辛かったですね。
はい。でも、ばあちゃんの時はじいちゃんの時のように泣かなかったですね。母が動揺していたから、こっちがしっかりしなきゃって感じで。
ー なるほど。おばあさんも、やさしかったですか?
優しかったです。おやじと喧嘩した時に、タタタタタってばあちゃんちに走って、何の理由も聞かずに二階を貸してくれたこともありました。ああどうぞどうぞ、って感じで。
「じいちゃんばあちゃんの服がこん中に入ってました」とハギさん。
ー ふたりはいまは仏壇に?
はい。
ー その仏壇はどこに?
空き家になってますけど、じいちゃんとばあちゃんの家にあります。
ー お参りはしてますか?
ええ。毎日。
ー 毎日?
はい。毎日…。いや、週6ですね。うん。週6で行ってます。
ー 誰もいない家に週6。すごい頻度ですね。
遊びに行くような感覚です。チーンっておりん鳴らして、線香立てて、水と花換えて、みたいな。
ー 家の中での当番制なのですか?
いえいえ、行きたいから行ってるって感じです。おれ、トロンボーン吹いてるんですけど。
ー おお。トロンボーン。
それを、じいちゃんちで吹いてます。
ー それはいいですね! でも、うるさくないんですか?
大丈夫なんです。まわり田んぼだらけだし、自由に吹けます。隣の家と100メートルくらい離れてますから。
ー 気持ちよさそうだなあ。そこにじいちゃんばあちゃんは、いる?
うーん、いねえな(笑)
ー いないけど、遊びに行ってる感覚があるんですね?
はい。
ー かつてのじいちゃんばあちゃんの思い出が蘇るとか、そんな感じ?
うーん。ちょっち違いますね。「いないけど、そこにいる」っていう感覚ですね。
ー いないけど、そこにいる。
はい。そんな感じです。
ー 水変えて、線香立てて、ちーんと鳴らすんですよね。お経は?
お経なんてひとつも知らないです。手を合わせて、ついでに勉強したりしてます。
ー なるほど。
ずいぶん昔の本があったりしたり、たとえば小松左京さんの『戦国自衛隊』とか。それをパラパラ読んだり。
ー 居心地よさそうですね。
居心地が、いいんです。
ー そこで暮らしていたじいちゃんばあちゃんとの関係性があるから、いまも居心地がいいのかな?
そうですね…。風通しがいいんですよ。それがすごく好き。でも、なんかまあ、そういうののほかに、うーん…。ここはなんかことばにしがたい過ごしやすさがある。
ー お仏壇に手を合わす時、胸の中で思うことや語りかけることってありますか?
日々のことですよ。「学校の課題、切羽詰まってるから応援してくれ〜」とか、都合のいいことしかお願いしない(笑)
ー 「トロンボーン上手くなりて〜」とか。
そうそう(笑)
ー 孫ってそういうもんですよね。
うん、うん。
ハギさんのトロンボーン。「食っていけるくらいまでにがんばります」と夢を語る。
ー じいちゃんばあちゃん以外の、もっと古いご先祖様も祀られているんですよね?
はい。
ー そういう人たちの存在は感じる?
感じないですね。
ー じゃあ本当に、じいちゃんばあちゃんに会いに行くっていう感覚なんですね。
はい。
ご先祖さまは「自然」。じいちゃんばあちゃんは「カムイ」に似ている
ー 家族や先祖は、ハギさんにとってはあたたかい場所や存在ですか?
うーん、「自然」ですね。ただそこにあるもの、いるもの。
ー 人によっては家族や先祖との関わりが、人生の縛りになると考える人もいます。
ああ、分かる。そう考える人も多分いるでしょうね、無理もないかなと。
ー ハギさんにとっては自然なもの?
そうですね。ただそこにあるものって感じです。北海道のアイヌってあるじゃないですか。
ー はい。
アイヌ語のカムイって「神」っていう意味らしいんですけど、なんかそれに似ているかな。カムイは「神」なんだけれども、同時に自分たちを取り巻く、自然とか、環境とか、そういうものも包んでいるもののことらしいんですよね。それに似た感じを覚えました。
ー 日本は昔からアニミズム、自然に対する信仰があります。山や海や川に、岩や木や土に神様や魂が宿っていると。
うんうん。そんな感じ。
ーハギさんにとってのじいちゃんばあちゃんも、その感覚に近い?
近いです!
ー 「自然」ということばにはふたつの意味がある。「ありのまま」という意味と、山川草木といった「自然環境」。その両方という感じ?
ですね。
ー 仲が良くて、かわいがってもらって、自然な存在だけど、神様に近い。おもしろいですね。自分たちを見守ってくれている感じがあるんですか? または、試されたり、試練を投げかけられたり。そういう大きな存在として捉えている?
そうですね。でも、絶対的な味方なんですよ。試されてるなって時も、「お前、ここでふんばらんと廃れるぞ。だからがんばれ」みたいなメッセージを感じます。
ー そういう感覚とか、カムイに似ているとか、誰かに教わったんですか? それとも、先に肌感覚があって、あとから調べていったんですか?
後者です。ひとりで感じて、ひとりで調べてました。
ー そういう話は家族とも…?
しないですね。母とも、ないな。家族って、近いようで遠い、そんなとこもありますもんね。
ー お母さんはお仏壇にお参りに行きますか?
毎日は行かないけど、行くときは丁寧に掃除とかしてますね。とっても、大事にしていますよ。
死後の世界のイメージ。僕はきっと犬になる
ー死後の世界はあると思いますか?
あります。ぜったい。
ーハギさんの中ではどんなイメージ?
枝分かれしている感覚。
ー ほお。
僕らの今いる世界はたくさんある枝のうちの1つの先っちょだと思っている。たとえば、ここはいまコロナ禍の世界なんだけど、でも、その隣にコロナのない世界があるのかなって感覚。この世界で死んだらまた別の枝に飛び移るみたいな。そこでまた新しい命を生きる感じ。死後の世界というか、昔からずっと続いてきた枝分かれした世界に生まれ変わる感じですね。
ー コロナがなったら。戦争に勝ってたら。世界が5秒ズレて自分が生まれていなかったら。たらればを言うと、世界は無数に広がっています。どう、別の世界に生まれ変わるんですか?
木の幹に検問があって、閻魔さんがいるんです。
ー おお! 閻魔さま!
んで、閻魔さんが「お前、この人生ではここが頑張れんかったから、次はこの世界で頑張れよ。行け」って感じなんです。んで、僕はきっと、犬になってるかもって考えちゃうんです。
ー 犬?
はい、犬です。生まれ変わったら犬がいいなってことで、このイラストなんです。
ー へえ。なぜ犬?
なぜだろ。厳密にはオオカミとかキツネとか、そういう感じに近い。何がいいかわからないからイヌ科の絵にしている。
ー でも、オオカミやキツネって北海道のイメージ。アイヌやカムイがよく似合う。
なるほど。
ー オオカミは「大神」と書くし、キツネは神社で祀られてますよね。
ほんとだ!
ー 冒頭で、輪廻転生を考えることが楽しいって仰ってましたけど、ハギさんの描く世界は、こういうことなんですね。
はい。見えないなにかに勝負を挑まれている感じがして、そこがおもしろい。
ー 死後の世界。見えないなにか。こうしたものを考えているとこわくならないんですか?
こわくないです。なんか、予期せぬ死、いきなりやってくる死に関しては、「おい、ふざけんなよ。まだ旅の途中なんですけど」って感じなんですけど、抗いようのないものだったら、「じゃあ次、がんばるか!」って感じになれる。
ー 逆を言うと、輪廻とか、閻魔さまとか、そういう世界観があるおかげでそういう「次、がんばるか!」って言えるのかもしれないね。
多分、そうですね
ー じいちゃんとばあちゃんは、死後、どこで何をしてますかね?
なにしてんだろ、あの人たち。いままでのような生活を普通にしているかもしれないし、なにか別世界で研究者とか大道芸とかやってるかも。
死を語ることのおもしろさと危うさ
ー 17歳の子たちって、死んだらどうなるかとか、考えるんですかね?
考えているやつ、結構いると思いますよ。中3の時に「死ぬの怖くね?」って話をしてたやつらを遠目に見てたこともあります。多分言わないだけで、みんな考えていると思う。
ー どうして考えているのに言わないのでしょうか?
多分、気持ち悪いからだと思う。
ー それはどういう気持ち悪さ?
なんかこう、政治の話に近いものだと思う。若干タブーに近いような。気軽に話せないような壁みたいなものがあって、話すには鍵を開けないといけない、開かれている感じがしない。
ー 話すテーマが重いのかな?
重いし、こわいし、相手の尊厳に触れかねないし。
ー まんがやテレビはエンタメ。話すと楽しいですよね。政治や死生観はエンタメにはなりづらい。でも一方でハギさんは、輪廻のことを考えると「おもしろい」と言ってましたよね? おもしろいことはエンタメにならないのかな?
うーん。そのへんが他の人とズレてるんですよ。(笑)だから、友達と呼べる友達いないし。
ー あははは。大丈夫です。僕もいっしょ(笑) まわりにこんなこと話せる人なんていなかった。だから、Zoomが普及して、いい時代になりましたね。
ねー。いい時代ですよね(笑)
ー お寺に行ってお坊さんに話を聞こうとか、死生観を話す場所に行ってみようとか、思わないんですか?
ちょっと壁がありますね。まだ。
ー なるほど。この時間はいかがでしたか?
楽しかったです。あっという間でした。
ー そうでしたか。本当に、ありがとうございます。
トロンボーンと同じくらい好きなのが絵。このイラストは金魚をモチーフにしたとのこと。
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